第2章

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「――くん……青羽くん!」 はっと意識を戻すと、カウンターの目の前にはお客様。 呼びかけてきた同僚の女の子が顔を顰め ている。 「もう、何ぼうっとしてるの?」 「あ、スミマセン」 差し出された本を急いで受け取って、レジを打つ。 「ありがとうございました!」 ひとつ吐息を落として予約の伝票の整理を始めた。 「どうしたの?この頃なんだか、ぼーっとしてない?」 女の子が顔を覗き込んでくるのに、何でもないと手を振る。 集中力が散漫な原因は分かってる。 ここしばらく多紀さんの顔を見ていないせいで、彼の事ばかり考えてしまうからだ。 思春期のガキじゃあるまいし――俺はいったい、どうしちゃったんだろう? 「お先ー」 裏口から店を出ると、外はまだ日が高い。夜勤が多いので、明るいうちに帰るのは何となくヘンな感じだ。 駐車場の隅に置いてあるバイクに跨って、ヘルメットを取る。 早くに帰ったところで、別にすることもない。ビデオでも借りてくるかなぁと考えたが、それも何となく気が進まない。 胸の底がもやもやとして、落ちつかないのは何故だろう。 専業主婦にメールでもしてみようかな 。お茶くらいなら付き合ってあげてもいい。 携帯の登録をスクロールし始めた時、目の前の駐車場を背の高い姿が横切っていった。 慌てて携帯をポケットに突っ込む。 「多紀さん!」 立ち止まった彼が頭をめぐらせてこちらを見る。 踵を踏んだままのスニーカーでけんけんをしながら、多紀さんの方へ駆け出した。 「……カウンターにいないと思ったら、上がりだったのか」 「あ、今日は日勤で……多紀さんも帰りですか?」 少し癖のある彼の髪は耳を軽く隠す長さ。額を出して緩く後ろに流しているその髪を、風がさらりと乱す。 「ああ、捜査がひとつかたがついたから、とりあえず」 「えっと……ガーデニングが、お好きなんですか?」 今買ってきたばかりらしい本の表紙を見て、訊ねた。彼の秀麗な眉が寄せられる。 「好きと言うわけではないんだが……上手く育たなくて」 「庭ですか?」 「いや、鉢植えなんだ……種を蒔いた」 「なんて花?」 綺麗な顔がちょっとだけ顰められて、多紀さんが何かを思い出す顔になる。 「……バーベナーとか、書いてあったかな」 「本見るよりも、花屋さんとかにに聞いた方が早いんじゃないですか?」 至極当然の質問をしてみた。多紀さんが口篭る。
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