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ベランダへと続くサッシを開けて外に出れば、そこには鉢植えが一つ。ちっちゃな緑の葉っぱが顔を覗かせている。
「……引越しの荷物の中に種の袋を見つけたから、蒔いてみたんだが、なんだかちっとも育たな いんだ」
「これ、水やりすぎだと思いますよ。根腐れ起こしかけてる」
ぷにぷにと鉢植えの土を人差し指で押してみる。
え?と脇に屈んできた多紀さんがつけている香りが、ふわりと立った。
「それに日当たりが不足すると花付きが悪くなって枯れやすいんです。なるたけ日に当ててくだ さい。水は土が乾いたらでいいから、液体の肥料を上げるといいですよ。ありますか?」
予想どおりだが、いいやと首が振られた。
「俺、ちょっと行って買ってきます」
いや、そこまではと困惑した顔になった多紀さんに、いいですってと手を振った。
「すぐそこのホームセンターに売ってますよ。どうせ暇だし」
足取りも軽く駆けて行って、土に差し込むタイプの液体肥料を買って帰ってくる。
「手間をかけてすまない」
申し訳なさそうな顔をする多紀さんに、気にしないでと笑いかけた。
「これで元気になるといいですね」
ああ、と優しく緩んだ瞳をなぜだか直視できずに、僅かに視線を外した。
インスタントしかない んだがと、出されたコーヒーに口をつける。
窓際のローチェスト。その上にぽつんとひとつだけ飾ってある写真に目を惹かれた。
ウェディン グドレスのほっそりとした女性の腰に手を回しているのは、タキシードの多紀さんだ。ずいぶん若く見えるけど。
「……きれいな人ですね」
無言で小さな笑みが返される。
「写真うつりのせいかな……なんだか多紀さん、ずいぶん若く見えますね」
「……二十の時の写真だから」
「はたちっ?」
思わず大きな声が出た。
――って学生結婚かい? まじまじと写真を見返すと、相手の女性もかなり若い。
「じゃあ、奥さんもそれくらい?」
「彼女は、十六だった」
「…………」
照れているのか視線を外して答える彼を、思わず見つめる。
「や……ネツレツですねぇ」
喉に何か詰まるような気持ちを押し隠して、あてられちゃうなぁと笑って見せた。
彼の右手が、無意識のように左の薬指のリングに触れていた。
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