第1章

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言っておくけど、俺はゲイじゃない。ただなんとなく……気になるだけ。 同性だろうと異性だろうと、気になる人って居るだろう? そう――それだけだ。 「青羽くん」 顔が緩んでいるのを意識したまま乱れた書棚の整理をしていると、店長から声をかけられた。呼ばれて事務室に入る。 「これ、今月の給与明細」 薄い封筒を渡されて、頭を下げる。 「ありがとうございます」 「バイト、最初は二ヶ月って話だったけど、もう半年近くだな」 言われて気づく。 「ですね」 「君は客あしらいもうまいし、続けてくれると助かるんだけど。深夜勤の出来る人間が少ないか らね」 「……もう二、三ヶ月お世話になってもいいですか?」 俺の言葉に、もちろんだよと店長が笑った。 半年近くも日本に居るなんて、珍しいと自分でも思う。 生来の風来坊で、大学を卒業してからはほとんど日本に居つかない。渡航先でボランティアの真似事をしたり、好きな山に登ったりして暮らす俺は、いわゆるフリーターってやつなんだろうな。 向こうで就けるときは仕事もするけど、やっぱりペイは日本の方が断然いいから。時々戻ってき ては、アルバイトなんかで軍資金をためている。 ここも二ヶ月くらいのつもりだったけど、思い もかけず長くなってしまっていた。 それから二日後、俺は多紀さんの携帯に電話をしていた。 『――のため、ただいま電話に出る事が出来ません』 流れてきた定型のアナウンスに、ちょっとがっかりする。 お昼休みの時間帯を狙ってかけたんだ けどなぁ。 しょうがないから注文の本が入荷したことを、留守録のメッセージに入れておいた。
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