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「……ん?」
私は背中に嫌な視線を感じて、少し立ち止まって後方を確認する。
こんな街中で、人混みの中で立ち止まれば私は間違いなく邪魔になる。実際何人かの通行者はめんどくさそうに私を追い抜いていった
だけど、そんな誰もが歩く人混みの中で1人だけ……同じく足を止めた男がいた。彼は私と視線を合わせると、ほんの少しだけ……笑った
「はっ……はっ……」
背中に冷たい汗が流れたような錯覚と共に、私は逃げるように走り出した。邪魔そうに私をかわした人達を、今度は私が追い抜いて行く。
全速力で走ると、すぐに息切れが始まる。元々は水泳の練習帰りに、祭りの出店に寄って空腹をしのごうかと思ったのに、かえって体に鞭打つ事になるなんてと祭りに足を運んだ事に後悔する
男には見覚えがある。多分、高校のプールを遠目に見てるって後輩の子達が噂してた男だ。確実に、確実にヤバい気がする……だから走る
漸く人込みを抜けて、商店街の入り口を抜けて……そのまま人気のない路地に隠れれば……
「きゃ!?」
その願いは叶わなかった。私は丁度路地から出てきた人と正面衝突し、勢い良く尻餅をついてしまった。
「す、すみません……あっ」
ぶつけた顔を押さえながら謝る。だが、今現在追われてるかもしれない私は、商店街の入口側からは丸見えなのに気づく。
いや、気づいた時には既に遅かったらしい
「逃げてんじゃねーっての」
男は金髪の髪をかきあげながら私に近づく。
「こちとら、ちゃんとナンパから手順踏んで優しく、遊んでやろうと思ってたのによぉ?」
優しい人間は遊びなんて言わないし、まず追ってきたりしない
そう言ってやりたかったが、走った後の息切れと、単純な恐怖で声が出なかった
「たく、って訳だ俺と遊ばない?いや、鬼ごっこなんてガキくせぇ話じゃないぜ?」
男がニヤッと気色の悪い笑みを浮かべて私に手を伸ばして来るが、動けない。怖くて動けない。私は怖い現実から目を背けるように瞼を強く閉じた
「は?」
男の間抜けな声が聞こえてゆっくりと目を開くと、目に映ったのは男の手首を私の背後から伸びた誰かの手が掴んでいる所だった
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