39人が本棚に入れています
本棚に追加
翌日。朝から地獄は雨だった。
時間という概念が無いので朝と言って正しいか分からないけど、とりあえず私が起きてからはずっと雨。
さっきまで酸の雨が降っていたのが、今しがた針の雨に変わった。
「お世話になりました」
今日は鬼が迎えに来る。
私もいよいよ天国行きだ。
「危ないから、雨が止んでから行きなよ。ゴーシュにもそう連絡する」
シムはとても親切でいい人だった。滞在は短い間だったけど、もうこのレストランに来られなくなると思うと寂しい。
ーーカランコロン
ドアベルが鳴る。
「忌々しい雨だ。最近の地獄天気予報は当てにならない」
入ってきたのは私に地図とサンダルをくれたあの賢そうな鬼で、鬼が頭や肩を払うとバラバラと無数の針が床に散らばった。
私は急いで箒とちり取りを用意して床を掃きだしたけど、落ちているのは正真正銘の針で、よくもこの雨の中を平気で歩いてきたものだと感心した。
「こんにちはゴーシュ。予定より早いね。もうすぐ一人、お客が来るところなんだ」
「ああ、どうぞ好きにやってくれ。雨宿りがてらに寄らせて貰ったんだ。私ももう少し仕事があってね。そちらの用事が済んだらお嬢さんを連れて行くよ」
鬼はそう言うと勝手知ったるという感じでカウンターの中に入り、狭い厨房の一角を陣取って座り込んでしまった。
私が戸惑ってるのを感じ取ったのか、シムは「ほっといていいよ。ゴーシュはマイペースなんだ」と肩を竦めた。
最初のコメントを投稿しよう!