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天国へ向かう車中、隣に座ったゴーシュが私に話しかける。
「今日、初めてレストランに入った」
「そうなの?何だか慣れてるように見えたけど」
「鬼は食事も必要としない。それにあの店は出来た当初、鬼達にとって物笑いの種だったのだ」
「どうして?」
「可笑しいと思わないか? あそこに来るのはあとは消え失せる運命の、形骸すらほとんど無くした魂の欠片だ。
それに食事を与える?
馬鹿馬鹿しいを通り越して悪趣味だと、誰もが考えていた。
天国に行った者は先を2択から選ぶ。天国で暮らすか、転生するか。
驚くべき事にシムは、今まであり得なかったもう1つの選択肢を選んだ」
「地獄でレストラン」
「誰も考えつかないだろう?」
私はゴーシュと顔を見合わせて、ふふふと笑った。
「今日その目で見てどう思った?やっぱり悪趣味だと思った?」
私の質問にゴーシュは少し考えて、
「悪くはない」と答えた。
「ねぇゴーシュ。シムは、ただ自分が料理を作りたいからあそこでレストランを開いたって言ったけど、本当はあの人達の為なんだね」
あのレストランの中でだけは、それがほんの一時でも。失った人間らしさを取り戻す事が出来るんじゃないのかな。
シムは、その最期の一瞬の為に料理し、キャンドルを灯し、客を迎える。
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