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「まぁ、料理を作りたいだけならば、他にやりようは幾らでもあるだろうね」
「一人で地獄にいて、寂しくないのかなぁ……」
ふと、厨房で黙々と料理をするシムの横顔を思い出す。
「さぁ。有り難いことに、鬼には寂しいという感情は無いからな」
そんな風にゴーシュとポツポツ話をしていると悪路に跳ねていたバスが快適に走行をし始めて、そろそろ天国が近いのだと分かった。
「ねぇ。このバスって、今ならまだ引き返せる?」
私の台詞にゴーシュは少しだけ驚いたような顔をして、だけどすぐに頷いた。
「とんだ変わり者がここにも一人、か」
「なんか……まだね、あそこに居たいって気がするんだ」
シムは全然待ってなんかいないだろうけど。
帰りたいんだ。
地獄の100丁目にあるレストランへ。
「林檎の皮剥きから教えてもらおうかな?」
私はまだ若い。
だから、切なさも悲しみも怒りも無い天国に用は無いんだ。
今のところは……ね。
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