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「よし。じゃあ、片付けちゃおう。今日はこれで店仕舞いだ」
シムの中で、今起こった出来事はなんの不思議も無いんだ。その証拠にテキパキと後片付けを始める様は至って平常だ。
私は訳も分かってない癖に謎の喪失感に襲われて、その場を動けないでいた。
「何やってるの。早く」
「ねぇ」
「なんだよ」
ボサッと突っ立っている新人に、シムは少しイラついているようだ。
だけど今はそれどころではない。
「今の……なに?」
ここは仮にも地獄で、生前の世界とは当たり前に全く違っているのだけど、それでも何か、決定的なものを私は見てしまった気がしたのだ。
「サキは天国行きでしょ。関係の無い話だ」
「でも、知りたい」
もう見てしまった。
あの影から終始放たれる、哀しみみたいなものを感じ取ってしまった。
私の様子から説明しないとテコでも動かないと思ったのか、シムはため息をつくと頭に巻いていたバンダナを外し、さっきまで影が居た椅子にドカリと座り、そして言った。
「あれは……地獄へ堕ちた人間の末路だ」
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