第1章

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「さてさて。後継者は、現れるでしょうか。」 老紳士は、楽しそうに呟く。 彼こそは、四半世紀前に騒がれた義賊中の義賊。 華麗に活躍し、最後の盗みののち、すっぱりと噂を聞かなくなった。 引退してのち、ここで受付をしている。 各ドアの向こう側にいるのも、客たちにスキルを伝授するのも、それぞれの『賊』を極め、名を挙げてのち無事に引退した者たちだ。 そんな賊は、数が少ない。 ほとんどは、捕らえられて投獄されたり処刑されたりする。 それでも、賊になりたいと希望する者たちはあとを絶たない。 「義賊の部屋」のドアの向こうにいるのは、老紳士の弟子だった元義賊だ。 数少ない義賊の技を、精神を、あの青年は引き継ぐことができるだろうか。 今日もまた、ドアが開く。 音もなくドアが開く。 入ってきた者へ、やはり音もなく老紳士は近づき、告げるのだ。 「いらっしゃいませ。ようこそ『賊屋』へ。どのような賊をお望みですか。」 終.
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