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「Cコースで頼む」
「Cコースの用意をお願いします」
息が落ち着き、ボロボロの鎧の男がメニューを指差しながら男の店員に頼むと、それを聞いた店員は顔を出していた女に注文をした。
その言葉を聞いた女は一度頷き、奥へとひっこんでいく。
「代金は…」
「着いて行った者達の誰かに渡してもらえれば結構です」
「すまない…助かる」
そう男が頭を下げると、奥から先程と同じ女が顔を出し男の店員に向けサムズアップをすると、すぐに奥にひっこんだ。
「ご注文は表に準備してあります」
それを確認した店員は、頭をまだ下げているボロボロの男に一つの小袋を差し出しながら言う。
小袋を受け取り、中を確認したボロボロの男は再度頭を下げ急ぎ店の外へと出ていった。
そして、店の扉が閉まったかと思うと入れ替わりで夏用の制服を着たどこかの女学生達が入ってくる。
「いらっしゃいませ」
店員は、その新しいお客に先程と変わらぬ一言を告げる。
「でさー、最近下着ドロが出てるらしいよ―」
「えー、地味なの干せないじゃん」
「取られるの前提なの?」
「もし、盗まれても地味なのとかは見られたくないじゃない?」
そんな会話をしながら女学生達は開いているテーブルに座り、各テーブルに置いてあるメニューを見始めた。
カウンターに座って追加で頼んだコーヒーを待っている男は、暇潰しに改めて店内を見渡した。
外からでは想像できない程に広い店内。客はそこそこに入り賑わっている。
軍人に侍の様な者、フードを深々と被り顔が見えない者に、大きな杖を持っている者。
テーブルに向かい一生懸命に何か書いている者に読書をしている者。
夏服の者に冬服の者。そして、自分の様に雨に濡れた者に、雪に足元を濡らしている者。
男は、入ってきた扉を見た。
木製の扉はガラスがはめられている部分があるが、不思議と落ち着く光を放つだけでガラスから向こうの様子は伺えない。
「お待たせしました」
「あぁ」
男は視線をカウンターに戻し、出されたコーヒーに角砂糖を二つ入れ溶かし飲む。
「美味い」
そして一言。
それを店員は少し微笑み頭を下げ答えると、いつもの様に仕事に戻る。
ここは、奇妙な喫茶店。
店員の名前は誰も知らない。何を注文しても出てくる。様々な客が居る。
どこでも誰でも来れる奇妙で不思議な喫茶店『迷店』は今日も営業中。
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