1

3/10

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 事件の発端は……、そう、今から三週間程前だ。 僕はいつも通り業務を終えて寮へと帰った。その日は妙に疲れていて、ベッドに入った途端に寝てしまったことを覚えている。 次に僕が聞いたのは電車の走行音だった。目を開けると、そこは電車の中だった。辺りを見回した時に、窓から小さくなっていく駅が見えた。 『どうぞ、お座りください』 車内の電光掲示板にそう書かれていたので、とりあえず空いている席を探して座る事にした。 座席は人のような黒いシルエットで埋め尽くされていた。ようやく見つけた空き席は、進行方向を前とするならば、その車両の後ろ側、七番目の席だった。 これは夢なのだろうな、と僕は薄々気づいていた。だって、僕は電車通勤者ではないし、ベッドに入ったことも覚えている。自分が寝たまま歩いている、なんてことが無ければこんなことは起こらないはずだ。  自分が席に座ると、車両の前の方の席で黒い影に混じって普通の人影があることに気づいた。 茶色の長い髪が特徴的な女子高生だ。1番前の席に座っている。俯いているし、自分の座る席から遠い場所にいるので、顔は良く分からなかった。 しかし、車内の空気が異様なものに変わったことは確かだ。 見れば、周りの人影が一点を見つめニタニタと不気味な笑いを浮かべている。 その視線は、あの彼女に注がれていた。 まるで、そこで何かが行われているかのように。 「まもなく、イケヅクリ、イケヅクリに到着します」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加