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摘花さんの三歩後ろで、僕は顔を適度に遺体から背けつつ彼の言葉をメモしていく。
「悪趣味だ。人間の活け造りなんて」
腹部をえぐられ、中の臓器は細切れに。目玉はくり抜かれ叩き潰されている。
足は無事だが、腕は適当な長さに切断され、箸のように置かれている…。書いているだけで気分が悪くなってきた。
「お疲れ。あとは写真を撮って、検視室に運び込むから、ちょっと休んでていいよ」
涼しい顔の彼がとても羨ましかった。
ブルーシートの外で一息ついていると、鑑識の制服を着た人らが固まって何かを話していた。彼らはブルーシートの天幕の方を気にしていたので、遺体の状況やらなんやらの報告だろうか。相変わらず規制線の外には野次馬がごった返していた。変死体、それが目の前で見られるかもしれないという期待でここに来ているのなら、早急にお引き取り願いたいものだ。
「大丈夫?」
遺体の搬出が終わったのか、摘花さんが声をかけてきた。それを見て、先程その辺にたむろしていた鑑識官達がそそくさと天幕の中へと入っていく。
「ごめん、周りを調べたけど身元がわかるものが見つからなかった。衣服もだいぶ破けちゃってるから身元の特定に時間がかかるかも」
「いえ。でも、これ刑事課案件になりそうですよね?」
「そうかもしれない。……ただの猟奇的な殺人として、捜査が進めばいいのだけど」
できればそうあってほしかった。そうすれば、ああ、あれは大変な事件でしたね。で済むのだから。
この後の検視にも立ち会うことを約束し、一旦車で署に戻ることになった。
「お昼だし、何か買って帰ろうか。お礼に奢るよ」
「アレ見たあとじゃ食欲はとても」
そりゃそうだ、と摘花さんは笑顔で助手席に乗り込む。とりあえずコンビニへ立ち寄って軽食を買う、ということで同意した。横目でチラリとバックミラーを見ると、人混みの中、じっとこちらを見つめている女の子がいた。制服姿だから、学生だろうか。もう本格的な暑さを迎えているというのに、彼女は冬服を着ていたためか浮いて見える。
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