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初めは悔しかったけれど次第にその感覚も麻痺しだし、いつの間にか皆の理想を崩さないようにすることも気をつけ忙しくなった。
つい先日まで柴垣くんの存在も忘れていたほどだ。
「結菜さん、頑張ってくださいよー?みんなの憧れだし、私の憧れなんだから!」
「ありがとう。でも私はお客様に満足していただけるように頑張るだけだよ」
「さすがです。だから結菜さんはみんなの『花』なんですよ」
沙耶ちゃんはそう言うと、トレイいっぱいのマグを抱えて給湯室を出て行った。
『憧れ』『理想』『花』
その言葉を言われれば言われるほど、私の首は真綿で絞められてゆく。
そんなふうに思ってもらえるような人間じゃないのよ、本当の私は。
「お前、まだそんな事やってんの?」
不意にかけられた声に驚いて勢いよく振り向くと、そこには入口前の冷蔵庫に凭れた柴垣くんが腕を組んで私を見ていた。
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