20266人が本棚に入れています
本棚に追加
/527ページ
どれだけ強く抱きしめたって、どうしてもこれが夢としか思えない。
それくらい長かった片思いがこんな急に終わるなんて、考えもしていなかったのだから。
「……柴垣くん……ねぇ……」
戸惑いがちに三崎はもぞもぞと腕の中で動いているが、その感触がまた可愛らしくてたまらない。
感触を感じれば感じるほど、これが現実だと実感できて。
一生抱きしめていたいとさえ思った。
「……ちょ……柴垣くんっ」
「うるさい」
何とも言えない感情を実感してるところなんだよ。
とはいえ本当にずっと抱きしめているわけにもいかず、俺は不満満載で腕を解いた。
「信じられねぇ、この結末。今までの俺の苦悩も今日1日の葛藤も。全部津田さんの掌で転がされてたって事かよ。つーかなんなの津田さん。お釈迦様かよっ」
付き合ってると言ったのも、家に来ると言ったのも、あの挑発も全部。
津田さんのお膳立てというわけだったのか。
「それもこれも……」
全部俺が情けないせいなんだ。
だけど。
片手でついっと三崎の顎を掬い、俺はキスするくらいに近さで三崎と視線を合わせた。
「全部お前が悪くね?」
「え?」
いや、本当は全部俺が悪いんだけど。
ただ一つだけ、いつも思っていたことがあるんだ。
「お前がアノ時、ちゃんと俺を受け入れてれば……」
「アノ時……?どの時?」
「うわ、マジかよ。お前の中で本当に無かったことになってんのか」
「……あ」
やっと思い出した『アノ時』
「今ココで再現してやってもいいけど?」
「あっ……」
そう言ってもう一度唇を合わせようとした瞬間。
「やめてくれます?ここ会社なんで」
妙に冷めた声に凍りつき、俺達は慌てて距離を取った。
最初のコメントを投稿しよう!