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「まぁ、一緒に帰ろうとは言わねぇけど、遅くなる時は一声かけろよ。危ねぇから」
柴垣くんの口からこんな言葉が出るなんて思いもしなくて。
私の心臓はまた大きく震えた。
「…うん。ありがとう」
素直にそう言うと、柴垣くんは口元だけを上げて笑うと立ち止まった。
「何お前。持ち帰られてぇの?」
いつの間にか自分のマンションの入口を通り過ぎていたのに気付いた。
「そっ…そんなことっ…」
慌てて否定したけれど、『ない』とハッキリ言えない自分に戸惑った。
「冗談だよ。早く帰れ。今は家の前でも危険なんだから」
「うん。お疲れ様でした。おやすみなさい」
「おう。じゃーな」
軽く手を振り私に背を向けた柴垣くんは、振り返ることもせずに隣のマンションへと向かう。
無性にその背中に手を伸ばしたくなって。
その感情を抑えるかのようにエントランスへと入って行った。
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