1.鍵の開いた部屋

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「でも何も盗られていないと思うけど。見たところ部屋も荒れてないし」 「ホントですか? ちゃんと確認したほうがいいんじゃないですか?」 「仮にこの部屋にあるものを何者かが狙っていたのだとしても、あの短時間で探し出して持ち出すのは難しいんじゃないかな」 「まあ確かに……そうですね」  わけがわからない。  合計三本ある鍵のどれかで開けられた可能性がなくなってしまった今、侵入経路は窓しか考えられない。けど、とにかく私たちは数分しかここを空けていないのだ。その侵入者はせっかく窓から入ったのにすぐ出ていったということになる。 「可能性としては二つあるね。まずもう一人のメンバーが用事を終えて居室にきて、何らかの理由ですぐに出ていった。もしくは、何者かがこの窓から侵入し、何らかの理由で犯行を思いとどまって、扉から出ていった」 「そう……なりますね」  でも疑問は残る。そもそも、仮にそうだとしてもその犯人は私たちがここを空けていたという確証をどうやって得たというのだろう。ブラインドは下りていたというのに。廊下から私たちが出てくるのを確認し、再び窓側にまわって侵入したということになるのだろうか? そしてすぐに出ていった? なんのために?  深まる謎に頭を悩ませていると、唐突にがんがんがん、と外から窓が叩かれる音がした。それに混じって、おーい、あけろぉ、という女の子の声も聞こえてくる。私はぎょっとした。ここは二階だっていうのに。  考えてみれば寒い寒いと言っていたわりに、こたつに入ろうとしない不自然な日向先輩を横に押しやって、私はブラインドをあげ、窓をあけた。すると頭に猫をのっけた少女が窓の桟に足をかけ、きっと陸上部も惚れ惚れするバネのきいたジャンプを披露して居室に入ってくる。猫のようなしなやかで無駄のない身のこなし。私はついさっき、この華麗な動作を間近で見ている。 「オイ、なんで締め出すんだよ日向。それにこんな散らかして。あとで片付けておけよ。私は手伝わねーからな」 「おや猫姫どの。おはよう。ずっと寝てりゃよかったものを」 「あ! お前! あんときの入れ乳だな!」 「いれっ、はぁ?」
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