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「ナノちゃん、君みたいな優しい子だったら持ってきてくれると思っていたよ。想像通りの働きぶりだ」
むきー! と悔しそうに眉を逆立てて、ナノちゃんが洗濯カゴを日向先輩の頭上でさかさまにした。今日は雲一つない完璧な晴天だ。恐らく乾きたてでほっかほかの洗濯物がなだれのように日向先輩をのみこむ。
「先輩、ナノちゃんに洗濯してもらってるんですか?」
「うん。すごく便利でしょ、ナノも僕といっしょで優しいからね」
墓地から蘇るゾンビのように洗濯物の山から這い出てきた先輩が、ずいぶん身勝手なことを言う。洗濯物の内容をよくみると大体がはんてんやパジャマといった部屋着類が多く、よっぽどのことがない限り居室から出ないという先輩の出不精ぶりがすっかりあらわれている。
「そうだよコイツ、せっかく洗ってほしてやったのに、乾いた洗濯物とりにこねーんだもん」
「面倒だったから、すっぽかせば持ってきてくれるかなと思って」
「はぁ? そんなこと言ってると次から金とるからな。一回百円。干すのに二百円。ここまで運ぶのに二百円。合計五百円」
「裕福でない僕からそんなふうに悪徳的に金をしぼりとったら、きっと君はろくな死に方をしないよ」
「その漬け物を買う予算をまわせばいけるだろ。おいニュートン!」
ナノちゃんが相棒の名前を呼ぶと、それまで例の二分割されたダンボールの中で眠っていたニュートンがむっくりと起き上がった。そしてぴょんぴょんと身軽にこたつテーブルの上に乗ってきて、先輩の唯一の栄養源であるナスの漬け物が盛られた器を華麗に強奪する。
「おい、それは僕が励起するための秘薬」
「こんなんで励起するわけねーだろ!」
「じゃあしょうがない、鮎川に頼もう」
「え、イヤですけど」
「あっははははははははは! 日向ざまぁ!」
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