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そんな学生の繁華街的なエリアの一角に私の目指す生協北店舗はある。店の外観や商品のラインナップはコンビニとさしてかわらない。むしろ商品によっては割高だが、食べ物を買うところといったら学食以外にはここしかないので昼食時は結構混む。私は店に入った。昼時を過ぎていたせいか人はそこまでいない。
店内をうろうろして瞬間移動の謎を解くヒントになりそうなものを探していると、先生が頼んだと思われているプレミアムコーヒーの広告がレジ横に掲げられていることを発見した。恐らく店の人が描いたと思われる手作りポスターで、店員を模した複数のオリジナルキャラクターたちがコーヒーを飲んでいる絵がカラフルに描かれている。どうやら注文してからレジ内にあるメーカーでつくってくれるというスタイルで販売されているらしい。
私はレジまで行き、三十代後半くらいの、ふくよかな女性の店員さんに注文した。今にクリームシチューを作り出しそうな雰囲気を纏うその店員さんは、声をかけるなり丸眼鏡の奥にひそんでいた優し気な視線を私に向けた。
「あの、プレミアムコーヒー、ひとつください。サイズはMで」
「はぁい。百四十八円でぇす」
「あの、今日、プレミアムコーヒー買った人の中に、ありえないくらい病弱そうな男性っていませんでした? 四十歳くらいなんですけど、もうちょっと老けて見えます」
「え? そうねぇ……おぼえている? 柏木さん」
ふくよかな店員さんが隣にいた柏木さんなる人に話しかけると、レジ点検か何かをしていた三十歳くらいの店員がこちらを向く。ふくよかな店員さんはしばらく柏木さんと二人でボソボソと互いの情報を交換し合っていたが、結論が出るなり顔を渋くした。
「ごめんなさい、おぼえてないわぁ。なにせお昼にはいっぱい人がくるし」
「じゃあ、おつりはいらない、って言った人とかいます?」
「私の対応した人の中にはいなかったと思うけど……」
「そうですか……」
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