2.瞬間移動

17/17
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/51ページ
「うん。僕がまず注目した点は、君の買ったコーヒーの容器の中には氷が入っているのに、ジュンヤが持っていたコーヒーの容器の中には氷が入っていなかったことだ」 「ああ。確かに可笑しいです。ということはこの氷が先生の?」 「そう。たぶんね。けど、先生のじゃない。もっと言うとコーヒーを買った人は先生じゃなかったんだ。ジュンヤが南店舗でメロンパンを購入したときと同じ時刻に、別の誰かがコーヒーを買ったんだ。その第三者は恐らくここでジュンヤと出会った。そして恐らく、ジュンヤがその人と衝突するか何かして、コーヒーをここにこぼしてしまったんだよ。そのときジュンヤはコーヒー代を弁償したんだ。レシートと引き換えにね。けどきっちり払うだけの細かい所持金がなかった。相手もまたお釣りを出せるだけの細かい小銭がなかった。だからジュンヤは端数を考えないで、近い値の金額の百五十円を渡したんだよ。そしてまた転ぶか何かして人格が入れ替わったんだ」 「あ……なるほど」 「証拠はないけどね。理論はできあがったから実証したいのなら聞き込みをして、そのぶつかった人かその現場を目撃していた人を見つけ出すことをお勧めするよ。そうすれば一発だ」  むやみにイケメンのくせに全身ピンク色、というちぐはぐな探偵は満足げにはにかんだ。  ぴゅう、と風が吹くと自分の身体を抱きかかえるようにして縮こまり、ふしゅっ、と自転車のタイヤから栓を抜いたときのような音を出す。それがくしゃみだということに数秒後に気が付いた。 「つまらない現象だったね。ふしゅっ」  私は後日、先輩に白菜の漬け物を報酬として与えた。不健康促進を手伝うのは先輩のためにはならないので、苦し紛れに塩分二十パーセントカットのやつを買った。先輩は大いに喜んで、もらったその日にぜんぶ食べてしまった。
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!