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「まあ、こっちへ来て、早くお座り」
「ええ……」
「ホントはもう一人いるんだけど。今日は行けないから、僕たちだけで始めてくれって。あ、紙は踏んでいいからね」
私はダンボールをまたいで部屋を進み、男に近寄った。すると彼が、あったかいよ、などとにこやかに言ってくるので、私はしかたなく布団をめくってその中に脚を入れた。確かに暖かいがいささかシュールである。
「じゃあ自己紹介しよっか。僕は日向(ひゅうが)。ドクター課程の一年。日向先輩って呼んでね。ええっと、マスターからここに住んでる。僕は基本的に優しいから、わからないことがあったらなんでも聞いてね」
「こ、ここに住んでいるんですか?」
「うん。ここにはエアコンもあるし冷蔵庫もある。コンロはちょっと離れているけど、でもちゃんとあるよ。その気になれば料理だってできる。こたつだってあるし。体育館にシャワーもある。洗濯だけは後輩に頼んで洗濯機を使わせてもらっているけど。家賃もかからないし。合理的でしょ」
「ご、合理的というか……」
ぶっとんでいる。だいたいどこで寝るんだ。
確かによく見ると、ここは生活感に溢れていた。扉の近くには冷蔵庫や電子レンジがあるし、日向先輩の背後には大きな衣装ケースだってある。デスクの下には洗濯かごもあるし、その近くに置いてある風呂桶の中にはシャンプーやボディソープのボトルが整列している。どうもここに住んでいるというのはウソじゃないらしい。
怪訝な顔を浮かべる私に、繊細なタッチで書かれた少女漫画のキャラクターみたいに端正でエキゾチックな顔立ちをした日向先輩は、真っ白な歯を見せてにっと笑った。色素が他人よりも足りていないのか、ちょっとボサっとした髪の毛や肌の色が病的に薄い。瞳もよく見ると茶色だ。黙っていれば美形なのに、言動がかなり奇抜なせいかかっこよくは見えない。
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