1.鍵の開いた部屋

6/16
前へ
/51ページ
次へ
「じゃあ次は君の番。名前とスリーサイズね」 「す、すりーさいず?」 「ダメ?」 「だめですよ、そりゃあ」 「そっか、残念だなあ。知りたかったんだけど。じゃあ、この研究室を選んだ動機とかにしようか。それならいいよね?」 「ええ、まあそれなら。えっと、鮎川椎奈(あゆかわしいな)といいます。その……申し上げにくいんですが、動機は正直ありません。私、成績悪くて、研究室を選べる身分じゃなくて。だから物性実験っていうのがどんなことをしているのかも、よくわかりません。物理、苦手なんです」 「え?」  日向先輩はきょとんとした。ぱちぱち、と長いまつげが上下に動く。 「君、物理科だよね?」 「ええ」 「珍しいね」 「よく言われます。でも事実ですし。でもそれって少数派ってだけで、可笑しくはないですよね」 「なるほど。確かにそうだ。うん。苦手な人だっていても可笑しくない」  うんうん、と探偵が推理するときみたいに顎に手をそえて、日向先輩は何度も頷く。どんな感慨を抱いたのかよくわからないが、楽しそうだ。へんなひと。 「それはそうと、かわいいスカートはいてるね。その下ってパンツ?」 「は?」 「だから生パンかそうじゃないかってこと。意味わかるよね?」 「あのぅ、そういうのってセクハラなんじゃ……」 「どうして?」 「どうしてって……」 「疑問を口にするのはなにか罪かな? 僕は気になるんだもの。仮に答えられないなら答えられないって言えばいいし」 「じゃあ、答えられません」 「そっか。そりゃあ残念だ」  本気なのか冗談なのかよくわからないが、この日向という男にはどうもデリカシーという概念が存在していないように見受けられる。これは女性の私からしたら欠点でしかないわけだけど、当の本人はあっけらかんとした態度で一貫している。そりゃそうか。自覚があったら治ってるものね。
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加