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「じゃあ次は君の番。名前とスリーサイズね」
「す、すりーさいず?」
「ダメ?」
「だめですよ、そりゃあ」
「そっか、残念だなあ。知りたかったんだけど。じゃあ、この研究室を選んだ動機とかにしようか。それならいいよね?」
「ええ、まあそれなら。えっと、鮎川椎奈(あゆかわしいな)といいます。その……申し上げにくいんですが、動機は正直ありません。私、成績悪くて、研究室を選べる身分じゃなくて。だから物性実験っていうのがどんなことをしているのかも、よくわかりません。物理、苦手なんです」
「え?」
日向先輩はきょとんとした。ぱちぱち、と長いまつげが上下に動く。
「君、物理科だよね?」
「ええ」
「珍しいね」
「よく言われます。でも事実ですし。でもそれって少数派ってだけで、可笑しくはないですよね」
「なるほど。確かにそうだ。うん。苦手な人だっていても可笑しくない」
うんうん、と探偵が推理するときみたいに顎に手をそえて、日向先輩は何度も頷く。どんな感慨を抱いたのかよくわからないが、楽しそうだ。へんなひと。
「それはそうと、かわいいスカートはいてるね。その下ってパンツ?」
「は?」
「だから生パンかそうじゃないかってこと。意味わかるよね?」
「あのぅ、そういうのってセクハラなんじゃ……」
「どうして?」
「どうしてって……」
「疑問を口にするのはなにか罪かな? 僕は気になるんだもの。仮に答えられないなら答えられないって言えばいいし」
「じゃあ、答えられません」
「そっか。そりゃあ残念だ」
本気なのか冗談なのかよくわからないが、この日向という男にはどうもデリカシーという概念が存在していないように見受けられる。これは女性の私からしたら欠点でしかないわけだけど、当の本人はあっけらかんとした態度で一貫している。そりゃそうか。自覚があったら治ってるものね。
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