第12章 新月の戦い

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 振り返ってみれば、隼人と巡り逢えたのは黒石の祖先のお陰でもあるのだから。私は眼をつむり手を合わせながら、私の婚約者を増田文徳ではなく山下隼人として紹介した。  そして、これで私は独身で死に黒石家の墓に入る、という運命からは逃れられたことに気づき、可笑しくなった。 「何を笑っているの?」  隼人に聞かれて私は理由を説明し、山下家の墓を二人で建てよう、と提案した。  彼は微笑すると、軽口を叩いた。 「瑠璃子さんは逞しいな。ちゃんと僕達の墓のことまで心配してくれている」 「だって、あなたと二人できちんと始めたいの。過去の事とかはすべて忘れ去って、前を向いて将来の事だけを考えていたいの」 「そのために墓参りに来たんじゃないか。婚約の報告もあるが、僕達が新たな一歩を進むための禊みたいなものだろう?」  隼人に手を引かれて瑠璃子嬢の墓前に立った。  私は眼をつむり、胸の内で彼女に語りかける。 「ここに隼人さんとの婚約をご報告に来ました。瑠璃子さんと文徳さんの霊が睦まじくいつまでも未来永劫、一緒であられますように。・・そして私と隼人さんがいつまでも一緒にいられますように、どうか、どうかお力添え下さい」  私が眼を開けると、隣で合掌していた彼に尋ねられた。 「で、いったい何をお祈りしたの?」 「私は文徳さん以上に素敵な隼人さんに巡り逢って婚約しました、ってご先祖様に報告しただけ」  隼人は微笑すると私の手を固く握ってくれた。 (了) ご愛読、ありがとうございました! 『DRESSシャンパン色の恋』『乱舞・あなたの腕の中で』を出版、文芸界に彗星の如く登場した東大卒MBA、謎の美人作家、愛川耀(Aikawa Aki)が贈る、胸躍る本格的恋愛小説。トキメキを一気読みしてね!
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