3章 昭和58年7月

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もう帰ろうと、浩一が背後の 鴨永美代子に言おうとした時だった。 バチンという金属音と共に、 今絵津浩一は自分の右足に激痛を覚えた。 ゆっくりと足元を見る。そこには信じられない光景を目にした。 浩一の足に鉄製の顎のようなものが噛み付いている。 その顎にはサメを連想させるような、鋭い歯が並んでいる。 その歯が彼の右足に深く食い込み、 おびただしい血を流させていた。 それはトラバサミと呼ばれる罠の一種だった。 一瞬の間の後に、激痛と恐怖に今絵津浩一は悲鳴を上げた。 後ろにいた 鴨永美代子も驚きの余り声が出ないでいる。 彼女はもがき苦しみながらトラバサミをはずそうとしている 浩一の足元に回りこんだ。
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