3章 昭和58年7月

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鴨永美代子はゆっくりと 顔を上げた。 そこには大きく錆び付いた斧が頭部から鼻先まで、 深々と突き刺さって割られている今絵津浩一の無表情な姿があった。 今絵津浩一の両目は瞳孔が開いていて、 空ろな視線は焦点が合っていない。 口をあんぐりと開けて、 割られた頭部から、脳の一部をはみ出させて、 絶命していた。 鴨永美代子は悲鳴をあげようとしたが、喉が乾いていて、 舌はもつれて声にならなかった。 その数秒後、いくつもの足音が雑草を踏み分けながら 彼女に近づいて来る。 すでに、 鴨永美代子は数人の人影に囲まれていた―――。
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