I'm a cleaning man.

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  ☆  金澤さんのあの笑顔から半年後。運命の日は、およそ一週間の冬休みが明けた、仕事始めの日だった。  社会人として初めて経験した冬休みは、それまで経験してきたどの冬休みよりも短くて、正月ボケになる暇なく終わってしまい、おかげで僕は支障なく業務に戻ることができた。そして滞りなく午前の業務を終え、その日の昼休みを迎えた。  その時間、同僚たちの声で賑わう休憩室で、僕は弁当を突きながら、金澤さんといつも通り、いや、冬休みで会えなかった日々を取り戻すように、いつも以上の熱量をもって掃除の話で盛り上がった。  その話が終わり、冬休みの間のことでも閑話として話そうかと、そう思った僕に、金澤さんは「ちょっと来てくれないかな」と席を立った。  何だろうと思いながら僕も席を立ち、金澤さんのあとを追って休憩室を出て、そのまま金澤さんに先導されて行き着いた先は小会議室Cのドアの前だった。  着くやいなや、金澤さんはドアを開け、僕は慌てた。だってドアの脇に、使用中との表示が出ていたから。  しかし金澤さんは慌てる僕に頓着せず、さっさと室内に入ってしまって、そして照明を点けると、「さあ入って」と僕に。  僕はすぐにはその誘いに乗らなかった。その場から室内を窺い、すると室内に誰もいない。  僕はドアの脇へと視線を移し、使用中の表示を再確認。首を捻る。答えを求めて金沢さんを見る。  そうした僕に、金澤さんは目で「入って」と言ってきて、僕は少し迷ったあと、恐る恐る室内に足を踏み入れた。  それからまもなくのことだ。その人が現れたのは。  ドアを開け放したままだった入口から現れたその人を見た瞬間、反射的に、僕は「ふ!」と言った。そのあとには本当なら、「うせん」と続くはずだったけれど、そこはどうにか自分の中に留めた。  どうしてこの人がここに? 僕がそう思う間に、その人はドアを閉め、更には鍵をかけてしまった。
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