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ドアの方から僕へと、その人は向き直り、その隣に金澤さんが並んだ。
金澤さんは作業着で、隣のその人はスーツで、二人の体型は凸凹。何だかコンビ芸人みたいだ――と、思っている僕に金澤さんが言ってきた。
「紹介するまでもないと思うけど、礼儀として紹介しておくよ。こちらは白石太郎。僕の兄だ」
僕は言った。「それって本当だったんですか!?」
すると金澤さんはこう言った。「あ、やっぱり疑ってたんだ」と。
その通り。僕は疑っていた。いや、はっきり嘘だと思っていた。だからこそ返事に困って、それで黙っていると、金澤さんが言ってきた。
「それは本当だったんだ。と言うより、それだけが本当で、他はすべて嘘だったんだ」
「他?」と、僕が首を捻ると、金澤さんは「うん」と頷き、「僕が君に秘密だって打ち明けたことは、今の話を除いて、全部嘘だったんだ」と。
「嘘!?」と、僕は思わず声を上げた。すると金澤さんは申し訳ないという顔で、「君が、これは秘密だから他人には言わないでくれと頼まれたことを守れる人間なのか、それを見極めたくて、申し訳なかったけど、嘘をつかせて貰った」
「……見極めて、どうしようと思ったんですか?」
そう問う僕の声はいつになく低かった。心の中に急速に広がった警戒が、僕の声をそう変えたのだ。
「君が秘密を守れる人間なら、頼みごとをしたい。そう思ったんだよ」
「頼みごと?」
そう言った僕に、頷いてみせたのは白石氏もとい白石社長だった。その頷き方が、さっき見たばかりの金澤さんの頷き方に似ている気がした。
「君に、弟と共に、私のもうひとつの目になって貰いたい。頼みたいのはそういうことだ」
さすがは業界大手のメーカーの社長と言うべきか。 コミカルな見た目に反し、その声には威厳があり、僕は気づかぬうちに背中を伸ばしていた。
それにしても、もうひとつの目? それは一体? と思う僕に、「提案したのは僕だ」と金澤さんは言ってきて、更に続ける。
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