I'm a cleaning man.

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「父と和解させてくれた兄に、ろくに孝行しないままあの世に逝かせてしまった父に、僕はずっと何かをしてやりたかった。だからこのビルへの配属が決まると、兄にもうひとつの目になりたいと申し出たんだ。でも、父から兄が受け継いだこの会社は大きくて、僕一人ではその役目を果たし切れない。それで僕は同僚の中に、仲間となれる人材を探した。だけどなかなか、条件をクリアできる人材はいなくてね」 「条件?」と僕が言うと、金澤さんは頷き、「有り体(てい)に言えば、兄のもうひとつ目になるということは、兄の会社の社員の中で問題を抱えていそうな者の動向を探ること。それには、動向を探る相手にあまり注意を払われない存在であることが重要で、僕ら清掃会社の人間はそれに打ってつけなんだ。だけど、そうなら誰でもいいってわけじゃない。ある程度の観察眼を備え、秘密を守れる人間でないと。しかしその条件に合う人材を探すと、これがなかなか」と。  僕は同僚たちの顔を思い浮かべた。皆、汚れには目ざとく、人を見る目も悪くないと思う。でも、秘密を守れるかどうかとなると、申し訳ないけれど、全員、たぶん危うい。  と、そんなことを思う僕に、金澤さんはまた新たに言ってきた。それは優に前言の二倍以上の長さはあって、まとめるとこうなる。  僕、城之崎佑真が条件をクリアする人材であると、金澤さんは僕と話すようになってすぐにわかったらしい。しかし僕の若さがネックだった。けれど半年前、僕が金澤さんから聞いた就職話で涙を見せ、それが金澤さんの中でどう作用したのか、金澤さんは、僕に白石社長のもうひとつの目となることを頼もうと決意した。そして金澤さんは、僕が本当に秘密を守れる人間か、また、観察眼はどの程度か、それを僕に悟られないように試し、結果、僕は改めて白石社長のもうひとつの目となれる人材であると判断された――以上。  僕は断ろうとした。そんな大役は僕には無理です。今の話は聞かなかったことにしますから、どうか他を当たって下さい、と。しかしそれを口に出すことは躊躇した。  金澤さんの表情も物言いも穏やかで、けれど雰囲気には威圧的なものを感じ、それが僕に口を開かせなかったのだ。  それで僕は沈黙。その沈黙を、意外にも白石社長が打ち破らせた。黙る僕に白石社長はある提案をしてきて、僕はつい、本当についっ! ああっ!(嘆き)
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