I'm a cleaning man.

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 母曰く、泣いている僕を泣きやませるのに最も有効な手段は、掃除機の音を聞かせるか、掃除機に触らせてやるか。  また、ぐずる程度なら、箒(ほうき)や雑巾、スポンジ、たわしなど、そのあたりのものを持たせてやれば、僕の斜めだった機嫌は、あっという間に上向いたとのこと。  ちなみに、それは僕の記憶ではすでに朧げな、遠い昔の話で、今の僕には同じ手段は通じない、……ことはないかもしれない。  なぜなら、今の僕も昔の僕と変わらず、掃除というものが好きだからだ。いや、好きと言うだけでは足りない。僕は掃除が大好きだ!  どうして僕がそうなのか、そうなったきっかけは、本人である僕にも家族にも思い当たるところがない。だからもしかしたら、僕の掃除好きは生まれもってのことなのかもしれない。  まあ、その真偽はともかく。知力体力時の運という、人間、せめてそのひとつくらいは秀でておきたい三大要素について、残念ながら、僕はどれも凡庸だったけれど、掃除好きだったおかげで、掃除に関してだけは、他人(ひと)より優れていると胸を張れる。  そして、その優れているもので将来は生計を立てたい――僕はいつの頃からかそういう夢を持ち、その夢は、高校を卒業したときに実現した。清掃会社に就職するという形で。  ところでその就職は、スムーズに行ったかと言えば、そうではなかった。親という大きな壁が、僕の前に立ちはだかった。  父も母も、僕には大学に行って普通の会社に就職して貰いたいという夢を持っていて、清掃会社に就職したいと告げると、親は自分たちの夢の方が僕のためにはいいのだと反対し、僕の夢を押し潰そうとした。  しかしもちろん、僕はそれに反発。「清掃会社のどこがいけないんだ! 清掃会社が普通の会社じゃないって言うのか!」と夢を押しつけてくる親に言い返し、すると親も言い返してきて、僕の方もまた言い返す。そんな日々がしばらく続いた。
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