I'm a cleaning man.

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 けれど幾ら日が過ぎても、親と僕の夢のぶつかり合いはぶつかり合うだけで一向に進展せず、するとある日、てっきり傍観者を決め込んでいたものと思っていた四歳上の兄が、言い合う僕と親の間に割り込んできて、こう言った。 「俺が普通の会社に就職してやるから、佑真(ゆうま)は好きにさせてやれよ」  その発言をきっかけに、兄への信頼厚い親の態度は軟化し、程なく僕の夢は認められ、おかげで僕は無事、清掃会社に就職することができた。  なお、そもそもが鳶(とんび)から生まれた鷹であった兄は、発言通り、いやそれよりも遥かに上の大企業に就職し、そのときからもう三年以上が経つけれど、未だに僕は兄に足を向けては寝られない。  ――と、僕のことはこんなところだろうか。  ではここからは、僕の上司の金澤次郎(かなざわじろう)氏について。  僕は金澤さんと呼ぶその人は、ひと言で言えば、ナイスミドル。それは外見も中身もだ。  僕が初めて金澤さんを見たのは、入社して数日が過ぎてからのことで、そのとき金澤さんは、社長と話をしていた。  その当時の僕は、社長のことは社長と知っていたけれど、金澤さんが何者なのかはまだ知らなくて、ただ状況的に、社内の人間だとはわかっていて、社長が丁稚(でっち)の御用聞きみたいに、金澤さんの話にへえへえと聞き入っていたから、きっと社長に近い地位の人なんだろうと思っていた。  でも実際は、金澤さんは僕と同じ、清掃業務に従事する社員で、それを知った僕は自分の就職先に不安をおぼえた。だって、この人なら仕事はそれではなく、会社の経営に携わる仕事をさせるべきだろう。この会社の上役の目は節穴なのか――と、不安をおぼえたのは、そう思ったがゆえである。  しかしその不安は、金澤さんと話すようになってまもなく解消する。  話してみれば、ますますこの人はこの仕事じゃないだろうとの思いも強くなったのだけれど、その一方、金澤さんが僕と同類、つまり無類の掃除好きであると判明。それによって金澤さんが自分から望んで清掃業務に就いているのだとわかり、おかげで会社に対する不安は消えた。  そして僕がそうわかるのと同じ頃、金澤さんの方も僕を同類と認識し、僕と金澤さんは急速に親しくなっていった。
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