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「でも最期にはちゃんと勘当も解けて、父とは和解したよ。……まあ、お互いに譲れない性格だったから、実は和解できたのは、兄が間に入ってくれてのことだったんだけどね」
金澤さんはそう、自分の就職についての話を締め括った。なお、最期とは、父親の最期。僕がその話を聞く三年ほど前に金澤さんの父親は他界したらしい。
金澤さんのその話を聞き終えて、僕はひと粒の涙を頬に零した。
自分の夢。それに反対する親。互いに譲れず、喧嘩する日々。そして兄が間に入っての和解。
それら、金澤さんの話の中に出てきたことが自分の経験と重なって、話を聞くうちに目頭が熱くなっていたことは感じていたけれど、まさか涙を零すとは思いも寄らず、僕は慌てて「すみません」と謝った。すると金澤さんは優しげな笑みを見せ、「いいよ」と言ってくれて、――それから半年後のことになる。
金澤さんがその優しげな笑みの裏で何を考えていたのか、僕が知ることになるのは。
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