I'm a cleaning man.

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  ☆  金澤さんの笑顔の裏にあったことを僕が知るまでの半年間。今となれば、カウントダウン的に過ぎていったその期間に、金澤さんが僕に仕掛けてきたことが二つある。そのひとつが、秘密の告白だった。  その秘密だけれど、ひとつではなかった。ある秘密を告白され、それから何日か過ぎると新たな秘密の告白をされる。そんな具合に告白され続け、最終的にはかなりの数となった。  数が嵩(かさ)めば、幅が出る。それってホントに秘密ですか? と、思わず尋ねたくなるような些細なものから、確かにそれは誰にも言えませんよねと頷きたくなるものまで、秘密の程度は様々で、中には、秘密ということ以前に、それは嘘でしょうとしか思えないものもあった。  その最たるものが、過去、宇宙人に攫われたことがあるという話。ただ、もし、金澤さんがその話を終えるまで真剣な顔を維持できていたなら、僕はその話を秘密として信じたかもしれない。それくらい、金澤さんの表情や語り口にはリアリティがあった。  ところが、もう話し終えるという段になって金澤さんは突然吹きだした。そのとき一緒に、僕の、もしかしたら本当かもしれないという思いも吹き飛んだ。それでも僕は、その後も笑いを堪えながら金澤さんがしてくる話を黙って聞き、話が終われば、さも今の話を信じましたよという風を装い、適当な言葉を返した。  秘密だと言うから真剣に聞いていた話が嘘であれば、もちろん腹立たしい。でも、これはナイスミドルのしでかしたちょっとしたお茶目なんだと思えば、腹立たしさは自然と消え、嘘に付き合ってやろうという気になれた。  ただ、ここでひとつ注釈を加えておくと、そういう気になれたのは相手が金澤さんだからで、同じことを他の人間にされたなら、僕はその人間を、最少は、冷ややかな目で見る。最悪は、弾劾裁判よろしく追い詰めるくらいはしただろう。  嘘に付き合ったのはあくまで、相手が金澤さんだったから。もっと言えば、僕にとってようやく出会えた大切な同類の金澤さんだったから。
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