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さてでは、次の話。
次の話は、今の話の次点。つまり、秘密だと言って金澤さんは僕に話してきたけれど、僕には嘘にしか思えなかった話の第二位。だけど実は、……いや、その話はあとにしよう。
「実は僕、この会社の社長の弟なんだ」
この言葉は、実際に金澤さんが言ってきた言葉そのまま。この会社とは、僕と金澤さんが籍をおく清掃会社のことではなく、僕と金澤さんが清掃員として勤務しているビルを所有する飲料メーカーのこと。
金澤さんには秘密を告白してくるときのクセがあって、それは告白前と告白後にそれぞれ、「今から話すことは僕の秘密だから」と、「今話したことは誰にも言わないでおくれよ」と言うこと。
金澤さんが秘密を話している間は、僕は相づちを打つくらいで、それ以外で口を開くことはほぼなかった。けれどこのときは、告白後のお決まり台詞が金澤さんの口から出てくる前に、「ここの社長の苗字は白石(しらいし)で、金澤さんとは違うじゃないですか」と言った。
すると金澤さんはすぐ、こう応えた。「僕の今の姓は妻のものなんだよ。妻と結婚したときはまだ勘当中だったから、何となく、妻に僕の姓になって貰うことに抵抗があってね」
僕はまた口を開き、今度はこう言った。
「ホームページで社長の写真を見ましたけど、金澤さんと全然似てませんでしたよ」
そう言う頭の中で、僕はホームページの写真で見た白石太郎(たろう)社長を思いだしていた。
写真の白石社長を例えるなら、よく膨らんだ風船。目の前にいる均整の取れた体つきの金澤さんとは、体型的には似ても似つかない。
しかし、似ているかどうかを考えるのなら、体型よりも顔だろう。ところが、体型の特徴はそのまま顔の特徴となり、顔が似ているかの判定は、肉に埋もれた白石社長の顔のパーツを掘り起こすでもしてやらないと不可能。つまり、似ていないと言ったくせに、実は僕は二人が似ているかどうかわからなかったのだ。
そんなことは知らず、金澤さんは応えた。「兄は父にそっくりで、僕は母方の祖父似なんだ」
前のように、僕はここでは口を開かなかった。それは金澤さんの話を信じたからではなく、言うことがなくなったからだ。
僕が黙ってまもなく、金澤さんは例の台詞を言ってきて、この話はそれで終わりを迎えた。
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