どちらに転んでも悪くない条件

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 風間はゆっくり稔の後ろに回ると、姿勢や指の動き、表情をじっと見つめている。稔は集中しようとしていても、風間に見られているというだけで落ち着かず、矢先の揺れが心臓の鼓動と同化して定まらない。 「気が逸れてるみたい。それじゃ、いつまでたっても当たらないよ」 「はい、すみません」  このままではだめだ、集中しないと……。  目を閉じて少しだけ深呼吸をし、的だけを睨みつけるようにして目を開いた。ギリギリと力を入れて矢を引き、頬に矢羽が触ると放たれた。  バシッと音を立てて、的の端に掠める形で矢が刺さる。 「惜しいね。でも、今の感覚ていいと思うよ」 「はい、ありがとうございます」  残心の姿勢に風間は近づいていた。腰に手が添えられ、耳元に吐息がかかる。ピクリと背後からの刺激に身体を震わせた。 「新人戦、一緒に頑張ろう。春日がいるだけで、俺勝てそうだし」  耳を擽るような話し方で、稔は顔が熱くなる。弓を持ったまま、どうしていいかわからず動けなくなってしまった。 「先輩……。あの……」  腰に添えられていた手がお腹に回され、後ろから抱き締められている。 「お前さ、俺のことずっと見てたよね?」  意地悪そうな語り口に、心拍が上がる。反比例して顔面蒼白になり冷や汗が出た。 「今度の大会でお前が勝ったら恋人にしてやる。負けたら奴隷な」 「な、なんですか、それ?」 「違うの? 俺の勘違いだったらごめん。だけど、見られてるなって思ったら、俺も気になっちゃって」  ギュウっと抱き締めたまま、首筋に鼻を擦りつける様に寄せている。着物の合わせに片手が入ってきた。 「えっと、確かに先輩に憧れて弓道部に入りましたけど。そういうのとこういうのは違うと思うんですけど……」 「俺は違わないから……。どっちにしても付き合うことは確定してるから」
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