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「あ、バレましたか?すみません。貴女が魅力的過ぎるもので、つい」
「いいのよ、気にしないで。私にはいつもの事だから」
女性はそうやってほがらかに笑うと、男の腕を掴んで先導しだした。
「ふふふ。案内してさしあげるわ」
「え、しかし」
「いいのよ、気にしないで 。私はこの店のオーナーなのよ。だから新しいお客様には、ぜひ常連客になってもらいたいの」
多少強引ながらも丁寧に席へと案内され、メニューを差し出される。
男がメニューを受け取って内容を見ると、そこには肉料理の名前のみが記されていた。
「全部……肉なんですか?」
「ええ。この店では肉料理しか取り扱っていないの」
「ふむ……」
男はメニュー表を見つつも、チラリと周囲に視線を向ける。皆一様に肉料理を食べており、その表情はとても幸せそうだ。
あれだけの高価な服を着ている事から、恐らく彼らは全員が金持ちであると、男は予想する。庶民である自分などより舌が肥えているだろう彼らが、ああも美味そうに食べているのだ、不味い事はないだろう。そう思い注文のベルを鳴らそうととした男だが、ふと気付いた。
「あの、このメニュー表、値段が書かれていないんですけど」
「あら?……ああ、そういう」
女は何かを納得した様に頷いた。それを見てバカにされたと感じたのか、男は少し苛立たしげに問いかける。
「あの、値段は?」
「値段は一律千円よ」
「千円?それはまた随分安いですね」
男は疑わしげな視線をを女に向けるが、女は意に介さない。
「嘘じゃないわ。もし騙されたのなら、弁護士でも警察でも呼べばいい」
「…………」
男は少し悩んだ後、女の言う通り通報の一つでもしてやれば良いと考え、素直に注文する事にした。
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