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やがて運ばれて来たのは、ごく普通のハンバーグ。こちらを見て笑んでいる女が気になるものの、試しに一切れ口に運ぶ。
幾度か咀嚼した後に飲み込むも、男にはある疑問が浮かんだ。
『果たして、この料理は金持ちが幾度も足を運ぶような料理だろうか?』と。
確かにこのハンバーグは不味くない。だが決して美味いとも言えないのだ。
美味しくはない。だが不味くはない。それが男の下したこの料理の評価だった。
「どうかしら?」
「え、ええ。良いんじゃないですか?」
美味しいとは言いたくないが不味いと言ってはこの店の雰囲気が壊れ、他の客に迷惑だろうと考えた末の言葉だった。
「そう」
そう言ったきり、女は黙った。対する男も黙々と食事を続け、十分程で間食した。
「ご満足いただけなかったようね」
「…………」
「無理して誤魔化さなくて良いわ。この店の料理は、合う人と合わない人がいるもの」
「そう……なんですか」
ただ自分には合わなかった。それだけではどうにも腑に落ちなかったが、それでも男はそれで無理に納得する事にした。そうしないと、自分という存在が酷く異物に感じるからだ。
「ねぇ、ここ料理では満足できなかったなら、二階へ行かない?」
「二階?」
「ええ。二階はここの料理が合わない人限定のスペース。あちらでは特別サービスを行っておりますわ」
「特別サービス……」
あからさまな怪しさだ。しかし折角来たのに微妙な料理を食べるだけで帰るのはどうかと思ったので、男は誘いに乗ってみる事にした。
ヤバそうなら逃げればいいか、等と軽く考えながら。
女に店の奥へと案内されると、業務用と思われる簡素な扉があり、その先に二階へ繋がる階段があった。
二階もまた簡素な造りであり、それなりに長い廊下に扉が点在している。
女が先に進もうとした時、一階から誰かが女を呼んだ。
「オーナー!お客様がオーナーをお呼びです!」
「あらそうなの。ごめんなさいね、あの扉の向こうがそうだから、先に行っててくれるかしら?」
男の返事を待たずに女は一階に下り、従業員と共にホールの方へ行ってしまう。
男は仕方なく指示された扉の前に行き、その扉を開けた。
「…………え?」
そして絶句した。
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