蠱惑のレストラン

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「貴方もこうして、何も考えられず、動けず、ただ死を待つだけになるのよ」 女は一頻り繭を撫でた後、繭の頭から噛みついた。ぐちゃっぐちゃっと、人間の肉や骨が噛み砕かれる音が響き渡り、男をさらに恐怖させる。女が食べている間に逃げようとしたが、背中が背後の糸くっついて離れない事に気づく。 恐らく女はこの事を知っていたから、わざと男の目の前で食事を始めたのだろう。 どうにかしなければとまだ動く腕を動かすと、ポケットの中にライターと十徳ナイフを見つける。 女が食事に夢中でこちらを見ていない事を確認し、ナイフを片手に隠しながら、もう片手でライターを使って糸を焼き切ろうとする。 「お前!何してる!」 糸が焼けて多少自由になると、糸が燃える臭いと煙で女こちらに気付き、怒りに顔を歪ませながら迫って来る。 恐怖に駆られた男は、糸に絡まった上着を脱ぎ捨てつつ、咄手に隠し持っていたナイフを咄嗟に振るい、女の顔を切りつけた。 運良くナイフは女の顔に深く食い込み、女を怯ませる事に成功する。ナイフはそのまま抜けなくってしまうも、男はそんな事を気にするヒマも無く女の脇を抜けて走り出す。 「ァ……ガァ……!良くも!良くも私の顔に傷を……!逃がさない……絶対に逃がさない!」 嫌な予感がした男が後ろを振り返ると、直ぐそこに蜘蛛の糸が投げ網の様に迫っていた。 男は咄嗟に伏せる事で網を避けたが、そのせいで動きが止まってしまう。そしてこちらへ向かって蜘蛛の走る音が伝わって来る。 「お前を喰うのはもうやめだ!両手足をぐちゃぐちゃにしてから、生きたまま脳髄を引きずり出してやる!」 「う、うわあああああああ!!」 男は転けそうになりながらも立ち上がり、再び走り出す。渡り廊下に飛び出すと、直ぐ様扉を荒々しく閉じる。そして扉の目の前にあった植木を倒してつっかえ棒にすると、出口を目指して走り出した。 男が渡り廊下を駆け抜け、壁を下ら様としたその時、巨大な何かが金属製の扉を破壊する音が聞こえる。本能的にそちらを見れば、人間の頭をした巨大な蜘蛛が廊下に立っている。その後ろ部屋からは、大量の煙が溢れ出ていた。先程伏せた際に男がライターを落としたため、それが原因だろう。 蜘蛛は廊下を見渡して男を見つけると、ニタァと嗤って走り始めた。男はその姿を視認した瞬間に下りだしており、蜘蛛が階段に着いた時には既に一階を走っていた。
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