蠱惑のレストラン

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「はぁ……はぁ……」 着地を考えず跳び出たために、男は地面を転がった。その際に店の中で化け物達に付けられた傷を打ち付け、全身に痛みを覚える。 男が大きな傷はないか体を調べると、幸いにして怪我らしい怪我は無い様だった。その事を確認した後、男は店へと視線を向ける。しかしそこには、つい先程まであった洋風の店は存在せず、何もない空き地が広がるのみだった。 「…………なっ」 男はそのまま十数分の間呆然としていが、しばらくして巡回中の警察官に話し掛けられ、正気を取り戻した。 警官の職務質問を何とかやり過ごした男は、自宅に帰ってから思考する。 アレは一体何だったのだろうか?常識では考えられない化け物達。捕らわれた人々。自分を招いた老婆。今となっては何も分からない。 しかし思うのだ。もしかしたらあの老婆は捕らえられていた人達が、自分に助けを求めて発した救難信号だったのではないかと。扉を開けてくれたのは、繭の中で死を待つ恐怖から解放された事への感謝の証だったのではないかと。 だとしたら随分と無茶な救難信号だな、と一人ごちる男。取り敢えず、疲れたので今日はもう寝る事にした。時間にして一時間もない間の事だったが、それでも男には濃密に感じたのだ。 ちなみに念のため、男は電気をつけたままにしておいた。 後日、男は新聞で山火事が起きた事を知った。その山は非常に多くの蟲が住む山で、専門家は酷く悲しんだとか。更に身元不明の焼死体が大量に見つかっている等の情報もあり、大規模な捜査が行われているとも。 その記事を見て、男は静かに彼らの冥福を祈るのだった。
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