風が音を鳴らす

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『私の影は、歩く男を求めている』  それは、私が望んでいるのだろうか。  知らない男を求める自分の影。  一体、彼は何者なのか。知りたい。  そう強く思った。このまま両の足を砂の上に踏み入れ、砂漠の世界に身を任せれば、きっと分かるだろう。いつも自分の傍らにある影が、主である私を捨てても、彼を求めている。  影が、彼に近づいていくのと比例して、私自身も彼を求めているのだと分かる。それは、恐ろしくもあり、同時に、懐かさも覚えるのでもあった。胸がざわざわとうごめき、ともすれば、足を踏み出してしまいそうになる。  恐怖は消え去り、風に流され消えていく。  このまま、彼の元へ行くべきなのだ。私の影は随分と伸び、いまにも切れ、離れてしまいそうだ。私を私であらしめる分身を置き去りにできない。  失えば、きっと私は私でいられなくなるだろう。ならば、求めるまま進んでいいのだと、影はそういっていた。  男と影は、もう数メートルで触れ合うまでに近づいている。  涼やかな背中を振り切るように、熱の世界へ足を踏み出そうした。瞬間、背中から風が吹きぬけた。  リンと風鈴が鳴った。二度目の音色を待っていた、あの音だ。 「待って」  叫んでいた。私の影は伸びるのを止め、男も歩を止めた。 「帰ろう。もう、そこは過ぎてしまったものだから」
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