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「本当にごめん。嫌われても仕方ないことをしたけど、それでもおれはどうしても君を失いたくないんだ」
陽希も立ち止まり、じっとおれの顔を見ている。まるですべての答えがおれの顔に書いてあるよと言わんばかりに。
「私だって君を失いたくない」
「そうなのか」
「自分の殻の中に閉じこもっていた私を広い空の下に連れ出してくれたのは君だ。もう戻ろうにも私を閉じ込めていた殻はなくなってしまったし、今さら一人置いてきぼりにされても困る」
「絶対に君を置いてきぼりなんてしない」
「それならいいんだ」
陽希はようやくニッコリとほほえんだ。おれは許されたのだろうか? いや、もしかすると、許すとか許さないとか、陽希はそんなこと気にしてさえいなかったのかもしれない。
どちらからともなく、おれたちは手をつないだ。おれが陽希を必要としているように、陽希もおれを必要としている。今はそれだけでいい。それ以上を求めたのが間違いだった。
それからは今までが嘘みたいにおれたちはよくしゃべった。主におれが話し、陽希はよく笑った。陽希の家の前まで送り、手を振って別れた。
ホッとして帰宅すると、双葉が玄関先で金属バットを持って待ち構えていた。
「お姉ちゃん、さっき泣いてたよね? 何があったか詳しく教えてもらおうか」
おれが双葉に殺されるのは、おれが陽希を振ったときばかりじゃなかったんだな。殺気に満ちた双葉の目を見て、おれは息を呑んだ――
「そっちに行ってもいい?」
「え? いいよ」
いつもはそんなやり取りはしない。すたすた近づいて陽希の隣に座るだけだ。
今日は昼にあんなことがあった直後だから、許可を取らなければいけないような気がした。
おれも陽希も眠っている。おれたちは眠っているあいだずっと一緒にいる。夢の世界を失って眠りに落ちればすべてが闇だ。だから一緒にいる。陽希が怖くならないように。
それなのに、おれ自身が陽希を怖がらせてしまった。夕方、双葉に金属バットでめった打ちにされたけど、そうされるだけの罪を犯してしまったという自覚はある。
許可を得たから、おずおずと隣に座る。陽希がおれの頭を優しくなでた。
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