お菓子の家

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その奇妙な店は、独特な臭いを放っていた。 壁からは、甘いチョコレートの匂いが、屋根からは焼きあがったばかりのクッキーの甘い匂いが。 その他諸々の甘い匂いが混ざって、とてつもない臭いを発している。 夏場のビル街にあるというのも問題で、ビルが反射した日の光を浴びてところどころが溶け始めてしまっていて、いまにも崩れてしまいそうだ。 普通だったら、こういう店は避けるのかもしれない。しかし、自分はこういった店には目がなく、行ってみたくなる質なのだ。なので、入店してみることにした。 白い砂糖でデコレーションされたドアを開け、店の中に入る。閉めると同時に後ろのほうで、ドサッという音が聞こえた。 「あ、気にしないでください。今日は暑いですからね、よくあるんですよ」 店員さんはそういうと、席の方へと案内をし始める。店の中はいたって普通だった。 どこで作ったのか分からない巨大なお菓子で、ソファーやテーブルが作られている。 今回案内されたのは、カウンター席だったが、大人数のところではスポンジのソファーが扱われてるらしかった。因みに、このカウンター席は、椅子を支える棒が最後までチョコたっぷりで安心できるお菓子でできており、座るところは黒糖の麩で出来ているらしい。 こうして観察を続けていると、メニューが運ばれてきた。一見普通のメニュー表に見えるが、薄いチョコで作られたものらしく、店員さんの白い腕と胸あたりが茶色になっていたことが印象的だ。 「何になさいますか?」 「うーんと、じゃあ、この甘々パンケーキセットで」 初めての店に行ったときは、おすすめと書かれているのを選ぶのが無難ということで、普段食べもしないパンケーキを食べてみることにした。 「かしこまりました、少しお待ちください」 そういうと店員さんは、メニューを片手に裏の方へと入っていく。
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