サトリの喫茶店

「はい？？」

マスターの思いがけない言葉に男の声が上擦る。
とうてい理解できるものではなかった。突然死んでいるなんて言われても理解も納得もいくわけがない。しかし、そう言ったマスターの顔は真剣そのものだった。

「突然なんですか？いきなり」

冗談だったとしても質が悪い。
男がマスターに掴みかかろうと身を乗り出す。

「君はここに来る直前の記憶はあるかい？その足元に置いてあるサッカーボール、、、それを帰宅したら息子に渡す予定だったのでは？なら、君は何故此処にいる？」

胸倉を掴みかけた手が止まる。
男は記憶を辿ってみるが、やはりどうやって此処に来たのか記憶がない。

「それは、、、」

男の言葉が詰まる。

「此処が何処なのか君は知る為に私の店に立ち寄った、そうだね？」

マスターの問いかけに静かに頷くと、男は再び椅子に腰を掛けた。
その様子を見届けたマスターが喋り出す。

「難しい話しをしても理解できないだろうから、噛み砕いて説明するよ。此処は死んだ事に気付いていない悲しい者達が最後に行き着く場所だ。私はあの世への案内人とだと理解してもらえればいい」

言っている意味は分かるが、その理解し難い内容に男も当然納得していない。

「いきなり死んでいるだとかあの世だとか、、、言っていることが全く理解できません！大体何故僕は死んだと言うのです？死ぬような理由なんてなかった！」

男は再び声を荒げた。

「事故だよ。君は帰宅途中、なにかに気を取られたのか脇見運転をしてしまってね。そのまま山道から逸れてしまい、谷底へ」

マスターの話を聞いて記憶が蘇る。