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目の前に現れたのは木造の建物だった。
出で立ちはよくあるログハウスだが、ウッドデッキにはカフェにあるような白い椅子とテーブルがキレイに並べられている。
門前には装飾の施された小さなボードがあり、一言【Open】とだけ書かれていた。
360度木々に覆われ、店へと繋がる道と呼べるものは見つからない。
ここに来るためには男のようにひたすら森の中を掻き分けながら歩いてこないといけないということだ。
奇妙な店だが、藁にもすがる思いで男は近づいていく。
近づけば近づくほど香ばしい珈琲の良い香りが濃度を増し、周囲を包み込む。
普段口にしている珈琲とは違う独特な芳香に、何故か男は少しだけ懐かしさを感じていた。
男はドアノブに手をかけ、静かに扉を開ける。
「いらっしゃいませ」
こちらが言うより早くそう言ってきたのは、初老ぐらいの歳の男だった。カウンターと思われる所に立つその男は、白髪混じりの頭髪を後ろに固め、小気味よい音をたてながら珈琲カップを磨いている。彼がこの店のマスターなのだろうか。
「アチラの席にどうぞ」
男はそう言われて初めて店内を見渡す。
淡い蛍光灯に照らされた店内は赤と黒を基調とし、何とも言えないレトロな雰囲気を醸していた。
しかし、店内には椅子とテーブルは中央に一つしか無く他に客はいない。
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