4人が本棚に入れています
本棚に追加
「慌てる気持ちは理解できます。しかし、物事にはいつも順序がある。此処がどこなのか知るのはまだ先、私が言わなくても自ずと答えのほうからやってきます」
微かに嗄れた声でマスターが男に語りかける。その言葉の意味は理解できなかったが、マスターの諭すような口調に男は落ち着きを取り戻した。
「それではまず一つめから」
そう言うとマスターはカウンターの奥へと消え、やがて長方形の小箱を手に男の前に現れた。
どこからか持ってきた椅子を机を挟んで男の対面に置き、そこに座す。
「こちらをどうぞ」
マスターは男に小箱を渡すと、机に両肘をつき手を眼前で組み、男の目を真っ直ぐ見つめた。
渡された小箱を男が開けると、シルクの生地に大事に納められたシルバーの腕時計がそこにあった。男は無意識に其れを手に取り、自らの左腕にそれを纏わせる。
時計の針は丁度16時を差したまま動かない。
「どうしてここに、、?」
男の口から溢れた疑問。
この腕時計は見覚えがある、というよりこれは他ならぬ自分の物だ。
最初のコメントを投稿しよう!