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男は腕時計の竜頭を引き出し、クルクルと左右に回す。しかし針は16時を差したままピクリとも動かない。
「これは僕のだ。16時を差したまま止まり、竜頭も壊れて動かない。同じブランド、壊れている箇所も同じ、そして16時を差したまま止まっている。こんな偶然が重なるわけがない」
男はマスターへと視線を戻すと、マスターは優しく微笑んだままこちらを見返してきた。
「知っていますとも、それは間違いないなく貴方の物だ。確か、、、君が18の時に父上からプレゼントされた物ですね。」
「どうしてそこまで知っているんですか?」
男は十八の時に父から貰ったなんて一言も言っていない。それにこの腕時計は家族にも触れられないように、大事に保管していた筈だ。
「知っているとも。私は君をずっと見てきたからね。この腕時計を貰った時の君の嬉しそうな表情は、今でも鮮明に思い出せるよ」
そしてマスターはゆっくりと語り始めた。
男が18の祝いにこの腕時計を貰った事。
いつも大事に磨いていた事。
時には友人や知り合いに誇らしげに自慢したりなんかしていた事も。
そして、父が運転する車が崖下へと転落し、父の死と同時にこの腕時計が時を刻むのを止めてしまった事も。
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