サトリの喫茶店

「どうしてそこまで、、、」

マスターの話の進行に同調するかのように、脳内でその時の映像が鮮明にフラッシュバックする。
嬉しかった想いも、大事にしていた記憶も、父の笑顔も、力なく自身を庇うように覆い被さった冷たい肌の感触さえも。
マスターが話を進める度に自然と込み上げてきた涙。気づけば腕時計の盤面は大粒のこぼれ落ちたそれが覆い、時を告げる数字は魚眼レンズのように歪んでいるように見えた。

「あの時俺が、、、俺が父さんに話かけたから、、、父さんは」

力なく消え入りそうに男は言った。
語尾は掠れ力なく消えていった。僅かに肩を震わせ、時折嗚咽を混じらせながら暫く沈黙が続く。

「あの日、山の中で¨何か¨を見つけた俺は、あれはなに？って聞いたんです。そして父さんの意識が俺の指差すほうに向いた時にはもう、、、崖から落ちる瞬間、僕の名前を叫ぶ父の声が最後でした」

「辛かっただろうね」

マスターの顔からは笑顔は消え、同情しているのかうっすらと涙を浮かべているようにも見える。

「誰にも言えなかった。僕が父を殺したと思われるのが怖かったかったんです」

マスターは首を縦に小刻みに振り、黙って話しを聞いている。
男は疑問に思っていた事をマスターに投げ掛けた。