プロローグ とあるお化け屋敷で

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「ほら、僕やヒロの名前もあるだろう?」 カズヤが懐中電灯を赤茶色の扉に向けた。ちょうど顔の高さぐらいの位置に、二人の名前と肝試しを達成した日付が刻まれていた。 カズヤが「これを使えよ」と太い釘を差し出した。少年は扉に肘を押しあて、自分の名前を彫っていった。ぎぎぎ、と錆びた鉄扉を削る音が暗い通路に響く。 「一回でクリアするなんて凄いよ。ヒロは三回目にようやく達成したんだぜ」 ささやくカズヤの声は少年の耳に入らなかった。一刻も早くこのお化け屋敷から出たくて、夢中で釘を動かした。額を伝った汗が顎へ流れていった。 「今日から僕たちの仲間だな」 その言葉でようやく少年の顔が緩んだ。自分も彼らと同じことをやり遂げたのが誇らしかった。これで僕も仲間に入れてもらえるんだ! 気持ちが高揚し、ほんの一瞬、カズヤがヒロに目配せをしたことに気づかなかった。
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