プロローグ とあるお化け屋敷で

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 だが少年の耳にその声は聞こえていなかった。 〝それ〟の頬の皮膚がぶちぶちぶちと音をたてて裂け、顔の下半分に突如として半月形の「口」が現れた。鮫の口のようにびっしりと牙が生え、盛り上がった頬肉の上には、爬虫類を思わせる不気味な双眸が光っていた。  恐怖で真っ白になった意識に、カズヤの声が潜り込んできた。 「彼女、口裂け女みたいなんだ」 〝それ〟が腕をしならせ、少年の視界を巨大な「口」がふさいだ。  暗闇に短い悲鳴がもれ、少年の身体が床に押し倒された。  銀色の円筒が床を転がった。主を失った懐中電灯が壁に影絵で照らし出したのは、化け物が小さな体にのしかかり、腕をもぎ取り、首をねじ曲げ、脇腹から臓器を引きずりだし、ガツガツと貪り食べる地獄の絵図だった。
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