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「今日は七月十五日。旧暦のお盆よ。この日は必ず満月になるのよ。昔の人は月明かりを頼りに先祖の霊がやってくると考えていたの。今、月遅れの八月をお盆にしているのは、その方が月光がより美しく見えるからなの」
さやかが夜空を見上げて呟いた。
「へえー、そうなんだ」
適当に相づちを打ちながら、耕太は胸を撫で下ろした。建物の窓に人影が見えた、なんて言えない。肝の据わった男はそんなものを見てはいけないのだ。
建物の裏口へ向かう六人の頭上では、流れてきた雲が月を覆い隠した。墨汁を流し込んだような深い闇の間を、白いガスのような雲が漂っていた。その雲の形は、見る者によっては、まるで笑う悪魔の顔に見えたかもしれない。
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