第一章 いじめられっ子、生徒会長になる

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 私は人の目を見て話すことができない。かといって誰かと話すときどこを見ているのかと言われても答えられない。目の前にいる話し相手以外の何か。答えるとしたらこれしかない。もっとも誰かと話すこと自体まずないから、話すときどこを見ればいいのか悩む必要もほとんどないのだった。  片道二時間の通学時間は私にとってもっとも苦痛な時間だ。通学時間が長いから苦痛なのではない。駅や電車内で知り合いに会うかもしれないと、通学のあいだずっとビクビクしているのが何より苦痛だ。  自宅から離れた、しかも工業高校の電気科に進学したのは電気工事士になりたかったからではなくて、私を知っている人(特に女子)がいないと思ったから。  入学してクラスにもほかの科の新入生にも同じ中学の生徒がいなくてほっとした。クラスに女子は私一人だったけれど、先生たちもクラスメイトの男子たちも親切で特に困ったことはない。まあ、授業はちょっとにぎやかすぎる感じがしないでもないけれど。  通学時間が長いから、家を出るのは早いし、家に帰るのも遅い。電車に乗るときも一番はしの空いている車両と決めている。そんなに心配しなくても、私が知り合いと出くわす可能性は高くない。実際、高校に入学して三ヶ月経ったが、心配していたようなことは一度も起こらなかった。私は油断していた。
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