第三章 高島舞の逆襲

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 長期戦の様相を見せてくると、四人組のうちの一人が私の方に突進してきた。緑が怒鳴る。  「原、走れ!」  私を人質にして緑を言いなりにしようとするクズに私は背中を見せて、私の背中に手がかかる寸前でクズの腹に回し蹴りを食らわせた。クズはその場に崩れ落ちた。意識もないようだ。  囲んでいたつもりが、私と緑に挟み撃ちにされて、残り三人はパニックを起こしていた。三人ともそれぞれ刃物を手に取って、それでも緑よりマシと見て、私に向かって殺到する。  「やめろ!」  緑は三人に追いついたが、一人が振り向きざまに切りかかり、緑はうわあっと悲鳴を上げた。悲鳴を上げながらも自分を切りつけた相手の顔面にこぶしをめり込ませている。  「緑君!」  別の男のあごを狙い蹴り倒して緑に駆け寄る私。それを見て、緑を切りつけた男ともう一人はバラバラに逃げ出した。  いつのまにか高島たち女子四人の姿もない。私と緑と倒された相手側の男子三人だけが残された。  緑の頬が縦に長く深くえぐられていて、血がどくどくと流れ出ている。傷が目まで届いてなかったのは幸運だった。  「おれが倒したのは最初の一人だけで、おまえは二人でしかも無傷。いいとこ見せてやろうと思ったけど、おまえの方が強くてまいったわ」  そんなこと言われてもちっともうれしくないが、緑は心からうれしそうにそう言った。  「今日は人生で一番忘れられない日になったわ。助けたいと思った女に助けられるなんてな。でもはずかしくはないんだ。なんでか分からないけど、無性にうれしいんだわ」  「血がいっぱい出てるんだから、なんでもいいから緑君横になって!」  横になる気がなさそうだったが、私が涙を流すのを見て、ようやく横になってくれた。  「救急車呼ぶから」  「呼ぶな!」  「どうして?」  「いいから原は早くここからいなくなれ。おまえははじめからここにいなかった。だから救急車もおれが自分で呼ぶからいい」  罪を全部かぶる気なのだ。私が嫌だと言ったら、緑のことだ。それならおれを殺せなどとめちゃくちゃなことを言い出すに決まっている。  私は素早くしゃがむと緑にキスをした。血の味がした。  「ありがとう!」  私はベンチの上の荷物をつかんで、走って公園を出た。振り返ると立ち止まってしまいそうだから、ひたすら前だけを見て走った――
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